とある日、札幌での調査だった。その現場は数回実施していたが、なかなか証拠が撮れず苦戦していた。
今日も何も得られずに終わってしまうだろうと不安を感じながら、いつも通り外出し、尾行を開始する。
すると、対象者の様子が普段とは違う。キョロキョロと周囲を見渡す怪しい動きに、我々も期待感が高まる。
対象者(男性、藤井フミヤのような長髪)は周りを確認してから、美容室に入った。よくあるパターンだ。浮気相手の女性に会う前に髪型を整えるのだろう。
我々調査員は予想を立て始める。「髪を染める?パーマかな?」「かっこよくして女性に会うんだろうな」といった具合だ。
1時間ほどして男性が退店する。「……ん?」 我々は顔を見合わせた。「これって違うよね?」「いや、服装も持ち物も同じだけど……」 一瞬の判断を迫られる。男性は我々の考える時間を待ってはくれない。
そうこうしているうちに男性は地下鉄に入っていった。我々が戸惑ったのには理由があった。対象者の髪型がふかわりょう風のおかっぱになっていたのだ。想像を超える展開に衝撃を受け、我々の予想は完全に覆された。
動揺を隠せない我々は、一名の調査員を急いで向かわせ、本人確認を依頼した。 すぐに調査員から連絡が入る。「対象者です!至急応援願います!」 我々は「ウソだろ(笑)」と言いながら走った。
長年の調査経験があっても、この後の展開が読めない。普通なら身なりを整えて異性に会うはずなのに、なぜこの男性は真逆の選択をしたのか。「?」が頭から離れない。
調査員と合流し、対象者を追う。地下鉄に乗り、大通駅へ向かう対象者。堂々とした歩き方で、電車の中でも揺れる髪。想像を超えた状況に、何度も笑いをこらえた。
すすきの駅で降りた対象者は、ラブホテル街へ向かう。我々は「まさか」と思いながらも、周囲に女性がいないか確認する。
ラブホテルに近づくにつれ対象者の足取りが速まり、迷いなく一直線に入っていく。受付を済ませ、単身で一室へ。先客がいる様子もない。
依然として「?」が消えない。首をかしげながら、我々はホテルのエントランスで張り込んだ。
20分ほどして、ラブホテル街に一人の女性が現れた。全身黒づくめで、黒革のロングコート、黒革のロングスカート、インナーは真っ赤。手には黒のボストンバッグ。異様な出で立ちは遠目からでも目立っていた。
その女性が対象者のホテルへ。考える間もなく、我々は自然と後を追った。同じエレベーター内で漂う強い香水の香り——バラのような匂い。歩く度に聞こえるカチカチという音。何か機械が当たっているような音だった。
女性は迷うことなく対象者の部屋へ向かい、三回ノック。
ドアが開く。女性が「あらー、待ってた?かわいい」と声をかけると、室内から「うん!!」と子供のような甘い返事が聞こえ、ドアが閉まった。
我々は目が合い、気まずくなった。しばらく無言で外へ向かう。やっと状況が整理できた。おそらく、そういったプレイなのだろうと。
入室から2時間が経とうとしていた時、女性が先に現れ、立ち去っていく。 10分後、対象者が姿を見せる。すっきりとした表情で、風になびくおかっぱ頭。
来た道を戻り地下鉄で自宅方面へ向かうかと思いきや、さっきと同じ美容室に入店する。
なぜだろう? 我々は再び困惑する。次は何が起こるのだろうか。
1時間ほどして対象者が退店すると、今度はちゃんとしたビジネスヘアーになっていた。 たった2時間のためだけに美容室に2回も行くとは……美容師も驚いただろう。
対象者は自宅へ帰宅。驚きの調査はこうして幕を閉じた。
後日談として依頼者からメールが届いた。
対象者の携帯電話を覗いたところ、調査当日の写真フォルダにサランラップでぐるぐる巻きにされた対象者の姿があったという。
おわり